大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和41年(オ)214号 判決 1967年2月23日

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人神谷幸之の上告理由について。

共有物の変更が共有者全員の同意を必要とすることは民法二五一条の定めるところであり、共有物についての処分もまた同様に解すべきものであるから、本件共有不動産自体についての抵当権を設定するためには共有者全員の同意を要し、共有者全員の同意がなくてなされた抵当権設定契約は、本件共有不動産自体についての抵当権設定の効力を生ずるものではない。しかし、通常の共有の場合、各共有者は、自由に、その共有持分の上に抵当権を設定し、その登記をすることができるのであつて、そのために他の共有者の同意を必要とするものではなく、また、抵当権設定契約が共有者全員の同意に欠けるため、共有物自体について抵当権設定の効力を生じない場合でも、特段の事情のない限り、同意をしない共有者を除き、右抵当権設定契約をなした共有者の各共有持分について各抵当権を設定したものと解する余地も存するのである。

ところで、本件において、被上告人らは、上告人が訴外大岩孝治に対して有する一審判決添付別紙目録記載の債権を担保するため昭和三三年六月二日上告人と被上告人らとの間に締結した被上告人ら共有の本件不動産に関する本件抵当権設定契約に基づく一切の抵当権は存在しないと主張してその不存在の確認、並びに本件抵当権設定登記の抹消登記手続を請求するに対し、上告人は、本件不動産は被上告人らの共有であることを認めた上、前記債権担保のため右不動産に対し被上告人らから抵当権設定を受けた旨主張していることは、本件記録に徴し明らかであるところ、原判決(その引用する一審判決をふくむ。以下同じ)は、「本件抵当権設定契約に被上告人大岩誠が関与したこと、或は、同人の委任を受けて被上告人大岩けいが右契約を締結したことを認めるに足る証拠はなく、そうすれば右抵当権設定契約は共有者全員の同意なくしてなされたものというべきであるから、民法二五一条により無効であるといわなければならず、よつて右抵当権の存在しないことの確認を求め且つ上告人に対し右抵当権設定登記の抹消登記手続を求める被上告人らの本訴請求は正当であるからこれを認容すべき」旨判示している。しかし、共有不動産に関する抵当権設定契約が共有者全員の同意なくしてなされたため民法二五一条に抵触し不動産自体についての抵当権は有効に成立しない場合でも、共有持分上の抵当権設定の効力が生じ得るものであることは先に判断したとおりであるから、この点の審理判断をなさないで、本件抵当権設定契約が共有者全員の同意なくしてなされたという点のみを理由として、本件抵当権設定契約に基づく一切の抵当権の不存在を確認し、また、本件抵当権設定登記の全部抹消登記手続請求を認容することは許されないものというべきである。仮に本件において、被上告人らの本件不動産の共有持分上に上告人の抵当権の存在が認められるとすれば、その限度で被上告人らの本訴請求は排斥をまぬかれない部分を生ずることになる(昭和三七年五月二四日最高裁判所第一小法廷判決、裁判集六〇巻七六七頁、昭和三八年二月二二日最高裁判所第二小法廷判決、判例集一七巻一号二三五頁参照)。

従つて、原判決が前記のとおり判示するのみで被上告人らの本訴請求を全部認容すべきものとしているのは、民法二五一条の解釈適用を誤まり審理不尽の違法があるというべきであり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点論旨は理由がある。

よつて、原判決を破棄し、更に審理をつくさせるため本件を原審に差し戻すべきものと(する)。

(裁判長裁判官 岩田 誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例